仕事が長く続かず転職を繰り返す、人間関係をリセットしたくなる、「自分はどうせダメな人間だ」といつも漠然とした不安を抱えている。
「周りは幸せそうなのになぜ自分はこんなに生きづらいのだろう?」と、周りとくらべて理不尽さを感じる。
理由はわからないけど生きづらい・・・
そう感じている人は一度、自分の生育環境を見直すことが大切かもしれません。
なぜなら、その生きづらさは自分がダメな人間だからでも、性格のせいでもなく、幼いころから周りの大人との不適切なかかわりによって脳が委縮してしまい、心身に影響の出る「マルトリートメント」を受けていたことが原因かもしれないからです。
この「生きづらい」は私も抱えてきた問題でしたが、心理カウンセリングと精神科の薬、さらにはマルトリートメント受けることにより、脳が委縮してしまうことを理解することによって「生きづらい」と感じていたころよりだいぶ「生きやすい」に変わりました。
この記事は日本の脳科学者で小児精神科医として活動する友田明美さんの著書「子どもの脳を傷つける親たち」を参考としております。
これまで行ってきた調査は、マルトリートメントを経験しながらも、一般社会でごく普通の生活を送っている18~25歳の人たちを対象に行ってきたものです。少なくとも調査をした時点では、こころの疾患や障害を抱えてはおらず、うつ病やPTSD(心外的傷後ストレス障害)だと診断されてもいませんでした。つまり、社会に十分適応できている人たちだといえます。
しかし、いざ調査をしてみると、一見問題を抱えてないように見えるこれらの人たちの脳内には、トラウマの痕跡が確かに刻まれていました。
引用:子どもの脳を傷つける親たち(P107:第二章「マルトリートメントによる脳へのダメージとその影響」)
このように、一見問題を抱えているようにはみえないけれど、マルトリートメントを経験し生きづらさを抱えながら社会に適応しようと頑張っている人がたくさんいます。
では私の経験を含め「マルトリートメントによる生きづらさと対策」についてお伝えしていきますので最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
マルトリートメントとは
マルトリートメントとは、意味としてはほぼ「虐待」と一緒です。
虐待というと強烈な印象になるので、大人からの不適切なかかわりを広い意味で「マル=悪い」「トリートメント=扱い」で「マルトリートメント」と呼んでいます。
この、大人からの不適切なかかわりによって成長した人の脳は、目にはみえないけれども傷ついています。
そして安心安全が与えられないまま育ち、心身ともに不調をかかえてしまうのです。
大人とは両親だけにかかわらず、祖父母、学校の先生など子どもと関わる身近な大人でもあります。
具体的なマルトリートメントと脳への影響
身体的マルトリートメント
- しつけのためと言ってたたく、蹴る、物を投げる、やけどを負わせる
心理的マルトリートメント
- 「グズな子だ」「こんな簡単なこともできないの」「あなたなんて生むんじゃなかった」など、存在を否定する言葉を言う
- 夫婦の喧嘩を見せる
- 兄妹の比較や人の前で笑いものにし、子どもの失敗を責める
- 継続的に愚痴を聞かせる
言葉による暴力で自分の存在を傷つけられり、父親による「お母さんは家の事を何もしない」母親による「お父さんは稼ぎが悪いからうちは貧乏」などの悪口は、自分に向けられた言葉でなくても子供は困惑します。
子どもに直接暴力をふるったわけではないけれど、夫婦間の大げんかや言葉の暴力は身体的な暴力を目撃したときよりも、脳へのダメージが大きいことが確認されています。
性的マルトリートメント
- 身体を触る、性行為を強要する。 裸の写真を撮る、ポルノ画像をみせるなど接触のない場合も含まれます。
- 親が風呂上りに裸でうろうろする
ネグレクト
- 食事を適切に与えない
- お風呂に入れない
- 子どもを家に残して長時間外出する
- 子どもが体調不良を訴えても病院へ連れていかない
- 子どもにスマホを渡しておとなしくしてもらう
愛着障害(アタッチメント)
- 子どもが自己管理ができるような年齢になっても親がやることなすこと口や手を出す
- 「うるさい!」「忙しいからあっち行って!」 と子どもをあしらう
- 子どもの話を聞くより、親ばかりが話をする
症状:何か言いたくても怒られるのを避けたり、会話の主導権を親に取られてしまうため自己主張ができなくなり、自尊心がうまく育たなくなります。
人とのコミュケーション力などのアタッチメント(愛着)がうまく形成されないので、子どもは親から「信用されていない」「自分は何もできないんだ」と感じ、自信がなくいつもびくびくするようになります。
漠然とした不安感を持ちながら大人になり、社会不適合化していきます。
上記のようなことが親から子供への不適切なかかわり方です。
どこの家庭にもあるようなことだと思った人もいると思いますが、どこにでもあるようなことがマルトリートメントにあたる場合があります。
こういった大人からの不適切なかかわりによって、自尊心を傷つけられた子どもは自己防衛として知らず知らずのうちに“自ら”脳を変形させているのです。
つまり生きづらさとは?
自分の思いや意見は無視され、大人の都合を一方的に押し付けられ、それを受けいれざるを得なかった。
つまり、ありのままの自分を受けいれてもらえなかったので自分で自分の事を受けいれられていない。
このようなことが成長してから漠然と感じる生きづらさなのではないでしょうか。
大人になっても「自分はどう生きたいか」「誰と一緒にいたいか」などの意思決定が弱く、自分がないままになると苦しくなるのは当然です。
また、自分ではないけどあなたの職場の同僚や友人で、自分で物事を決められなかったり人から利用されやすかったり、いつもお金や人間関係でトラブルを抱えている人など見たことはありませんか?
その人はもしかしたら、マルトリートメントを受けたことでうまく愛着形成が育たなかった人かもしれません。
そして冒頭でもお伝えしましたが、私自身も長年「生きづらい」を感じてきた一人です。
生きづらさの理由を探っていくと、幼少期の頃から周りの大人にマルトリートメントを受けていた影響だと認めざるを得ませんでした。
私が受けていたマルトリートメントと大人になってからの生きづらさ
- 両親の激しい喧嘩
私が幼いころから両親は顔を合わせれば罵り合い、殴り合い、父にお酒が入ればちゃぶ台どころかテレビを外に投げるといったことがよくあり、両親が家にそろっていると必ず喧嘩が始まるのでいつもびくびくしていました。
- 継続的に愚痴を聞かされる、子どもより親が主役
特に母からは、毎日のように自身の不幸な生い立ちや父の愚痴を大人になるまで聞かされ続け、「もう聞きたくない」と言えば「あんただって大人になって結婚すればお母さんの気持ちがわかる」と、子どもの気持ちよりも自分の方が辛かったことをアピールします。
まるで子どもは親の愚痴のごみ箱です。
不幸な生い立ちで、父に暴力を振るわれる母を守らなければならないと私は思うようになり、家が不穏な空気になると必死で親をなだめたり、おちゃらけてみせたり、まるで「ピエロ」のように仲の悪い両親のケアにあたらなければなりませんでした。
- 不適切な家庭環境
住んでいた家は、兄妹が多いわりに4畳半と6畳のみの長屋で、お風呂はバラックで囲ってあるだけの誰でも侵入できる外にありました。
狭い部屋には物を収納するカテゴリーがあいまいで、どこに何があるかいつも混乱し、目につく場所には卑猥な成人雑誌や漫画が転がっており、玄関に鍵をかける習慣がない危機管理意識のない状態でした。
電気はよく止まっていましたし、「お父さんがお酒ばっかり買うから明日食べるお米がない」というセリフはしょっちゅう聞いていました。
そんな、見たくない聞きたくない、理不尽さを感じる家庭環境というマルトリートメントを継続的に受けていた私は学力低下から始まり、以下のような困難を抱え社会に適応するのがむずかしくなっていました。
- 物事の意思決定ができない(誰かに自分の事を決めてもらう)
- 自己肯定感が著しく低い
- 人間関係でトラブルが多い
- 他人優先の指示待ち人間
- 聞こえが悪く、人の話を最後まで聞く集中力ないので理解につながらない
- 物事を達成するまでの道筋や優先順位を立てられない
- 確認・報連相をせず自分の解釈だけで物事を進めてしまう
- 失敗しても方法を変えることができず同じパターンを繰り返す
マルトリートメントを受けた子どもは、自分のことを守るために痛みを感じさせないよう脳を変形させますが、それは社会に適応するのが難しい現状を作り出します。
防衛反応から大人に合わせてしまい、自分としてどう生きるかという選択肢がなくなる本来の自分を見失なっている状態です。
マルトリートメントは非常に愛着形成がカギになります。
愛着形成は家庭それぞれで、大なり小なり誰にでもあります。
特別すごい経験をしてきた人ばかりが生きづらさを感じているわけでなく、大事にされて育ったという人だってどこか寂しさを感じながら生きている人も多いです。
人は、生まれてから人間関係の基礎を学ぶのは親や周りの大人からです。
親とは、たくさん失敗を繰り返して成長する子どもの「受け皿」となり、子どもにとっての「安心安全」を感じる場所なはずです。
適切な愛着関係を築くからこそ、成長した子どもは自分で自由な選択をし、社会の波を時には信頼を寄せられる人に頼りながら自分で操縦し生きていくでしょう。
でも、生きづらさをかかえているひとは「過去は変えられないから」「親ガチャ失敗したから・・・」とあきらめるのでしょうか。
生きづらさを改善するためには
違和感を抑え込んで親の支配下にいなければ生きていけないと感じていた人はたくさんいます。
そんな心の傷つきが深い人の場合、感じていいはずの幸せや心地よい環境を素直に受け取れず苦しみます。
自分の子どもに親からされたことと同じようなことをしてしまう、人間不信、うつになったなど、生活に支障をきたす場合は以下のような薬物療法と心理療法が必要になってきます。
薬物療法と心理療法
1.薬物療法
症状に合った抗不安薬や抗精神薬を使い、抑うつを伴う場合はSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)などを使う。
2.心理療法(カウンセリング)
「トラウマに対する心理療法」と「愛着に対する心理療法」を専門家の元で行う。
このような方法がとられることが多く、私もこの2点は実践しました。
なかには、マルトリートメントを経験した人でも薬やカウンセリングに頼らず、信頼できる身近な人や自分が心地よい居場所を作って回復されている方もたくさんいます。
そういう人は自分の成育環境にしっかりとした違和感を持っていた、または違和感に早く気づけたから不適切な環境から抜け出そうと自分で目標を立てられたと思います。
私が実践した治療方法
最初は精神科へ行って薬を使うより先に、心理カウンセリングへ頼り自分のこころと向き合うことから始めました。
心理カウンセリングを受け始めると、意識が動き、自分にとって安心を感じる環境を作ろうと以下のような行動するようになりました。
1.安心安全な居場所を確保する
親から離れて一人暮らしを始めました。育った環境は、一人になれる場所はありませんでした。
とにかく一人の部屋でゆっくり寝たい。自分をみつめたい、そんな思いでした。
2.精神科のデイケアに通う
鬱になり、仕事もままならなかったときに社会復帰のため通い始めました。
そこでは同じく何らかの理由で精神的な病気になってしまった人たちと交流を深めながらヨガやアロマ、精神的に癒されるプログラムに参加しました。
中でもファッション雑誌を使い、自分が気に入ったページを切り取って紙に張り付けるだけのコラージュは、潜在意識が癒され精神的に良いものでした。
3.自助グループに参加する
デイケア同様、同じ病気や境遇の仲間とお茶を囲み、どのように病気とむきあっているかなどをシェアします。
時にはお花見に行ったり梨狩りに行ったりと、仲間の存在が心の支えになりました。
まずは自分の心の違和感に気づき、同じ境遇の仲間や医療機関に頼り、自分と向き合うことが回復の一歩となります。
カウンセリングや薬物療法など治療の詳細をまた違う記事で書きたいと思いますので読んでいただけたら嬉しいです。
まとめ
今ではネットが主流となっているので「生きづらい」で検索すれば“アダルトチルドレン” “HSP” “毒親” “親ガチャハズレ”など思い当たるキーワードがたくさんあり、自分の生きづらさの原因を理解している方も多いかと思います。
原因を理解しただけで終わりではなく、頑張って生きてきた自分を自分でほめていけるようになるといいでしょう。
そのためには、自分の問題となった出来事を振り返るという、できれば思い出したくない作業が必要になってきます。
とても大変な作業なのですぐに変わることはできません。
ですが、少しづつ、自分のペースでいいんです。
あせらず向き合うことによって「生きやすさ」につながることは間違いありません。
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