子どもに何度同じことを注意しても通じない
子どものことでまた学校で先生から呼び出された
このように、日常生活で親は子どもの様々な状況に直面します。
なぜ私を困らせるようなことばかりするの?
と、どんどんネガティブな思考に陥ると子どもに対して声を荒らげて怒ってしまったり、厳しい口調で責めたり、時にはつい手が出てしまうことが起きます。
感情的になってやってしまったことでも、このような大人から子どもへの不適切な行為は「マルトリートメント」と呼ばれここ数年、日本社会に少しずつ浸透してきています。
そんな子どもとのかかわり方で
うちの子育てづらい・・・
と難しい現実に直面しているあなたに、私がお伝えしたいのは子どもとの接し方を学んで子どもの行動を変えていく「ペアレント・トレーニング」を学んで、親のネガティブな脳をポジティブに変え子育てをより良いものにしていくという方法です。
ネガティブな思考をポジティブに変えていくということは、単に「考えすぎないでおこう」とか「ほっといておこう」というようなエセポジティブになるということではありません。
実は、子どもにしてしまうマルトリートメントは親であるあなた自身が育った環境で経験してきたからこそ無意識にやってしまっている場合があります。
「つい手が出てしまう」行為が最初は軽くたたいたつもりが感覚が麻痺してだんだん「虐待」といわれるような行為にエスカレートしてしまうことについても触れていきたいと思います。
この記事は日本の脳科学者で小児精神科として活動する友田明美さんの著書「親の脳を癒せば子どもの脳は変わる」を参考としております。
医師になりたてだったころ、親や保護者、ときには学校関係者(以下、「親」という言葉に集約しますが、子どもの養育、保護、教育にかかわる大人を含みます)によって傷つけられた子どもを目の前に、自分の感情をコントロールすることができず、診察のなかでその人たちを責めてきました。
しかしあるとき、自分の中に「親への視点」が欠けていることに気づいたのです。
大人は子どもを死に至らしめることができるほどの腕力と知能をもっています。
そのことを知りながらも子どもを傷つけてしまう親の脳とこころには、何らかのトラブルが生じていることが推測できます。
詳細については本書のなかでお伝えしていきますが、こころに傷を負った親たちを支援し、必要に応じ適切な治療を施していくことこそが、子どもを守ることにつながると、いまのわたしは確信しています。
引用:親の脳を癒せば子どもの脳は変わる(P9:はじめに)
子どもの虐待はなぜ起こるのか(P20)
世間で流れる大人が子どもへ虐待するニュースをみるたび、私たちは痛みと悲しみ、加害者に対する怒りや憤りを感じます。
では、「虐待をする親がいるのはなぜか」といった問題に関してあなたは真剣に考えたことはあるでしょうか?
実は、その問題について考えるとき「なぜほとんどの場合は虐待しないのかについて理解する必要がある」という視点がとても大切なんです。
その虐待をしない理由は、子どもがたどたどしく自分を求めてくる姿に「自分がこの子を守らなきゃ」とお世話をしたくなるようなメカニズムである「母性的養育行動を行うのに必要な神経回路」という、つまりは「母性本能」にあります。
なのでほとんどの場合はこの生命を脅かすような虐待はしないのです。
それにもかかわらず、子どもが命を落としてしまう事件や、私たちには見えていないところで行われている子供への虐待はなぜ起こってしまうのか。
それは、子育てを「うまく」行えるような養育環境や経験が大きく欠けてしまうというところに、虐待のリスクがうまれてしまうのです。
虐待の概念と見極め方 (P22~23)
以下、厚生労働省では4つに定義されています
この定義を読んで「該当していないし縁遠い」と感じる人は多いのではないでしょうか。
では以下のようなことはどうでしょう
こういった経験はないでしょうか?
ですが、親だって感情のある人間です。
いつもにこにこして子どもと接するなんてできるはずもありません。
そしてそのような行為を行ってしまったときに大切なのは、子どもへの行為が「虐待なのか否か」追求することではなく、その行為によって子どもが「傷ついているか否か」を見極めていくことです。
このマルトリートメントの行為を改めず、「継続」させてしまうことが深刻な事態へとエスカレートしていく恐れがあるのです。
ですが、マルトリートメントが一切存在しない家庭や教育の場の方がまれです。
では、どうしたらマルトリートメントを継続しないで済むのか?
それを親や周りの大人たちが真剣に考えることが大切です。
マルトリートメントによるその後の人生の影響(P46~50)
大人がマルトリートメントを改めず、継続をしてしまうとマルトリートメントを受け続けた子どもの人生にどう影響するでしょうか?
以下にまとめてみました。
- 社会的障害・・・対人関係に苦しむようになる
- 情緒的障害・・・意欲の喪失、集中力の低下、うつ症状の発現
- 認知的障害・・・認知機能がなかなか上がらない
- 気分障害・・・過度に気持ちがふさぎこむ、過度に気持ちが高まる
- 不安症・・・日常生活で強い不安を感じる。
- 心的外傷後ストレス・・・トラウマの原因となった出来事をフラッシュバックで再体験する
- 解離症・・・精神を保つための記憶や知覚、意識などのまとまりが失われてしまう
- 境界性パーソナリティー障害・・・気分の変動が激しく対人関係が非常に不安定
このように、幼いころにこころに受けたトラウマをそのまま放置してしまうと、時間の経過とともに重症化し、成人してからも精神疾患に悩まされることになります。
私もマルトリートメント経験者ですが、自分の事を自分で決める意思決定が弱く、30歳半ばまで常に意識はふわふわしていて、でも漠然な不安は抱えており、肝心な「自分」に意識を向けることができませんでした。
その結果、心が保てなくなり、社会に適応できず不安障害と診断されました。
なので、早期の治療が必要だと切に思います。
トラウマを抱えたまま親になる人たち(P58)
マルトリートメントのある家庭のほとんどの親がマルトリートメント経験者です。
子ども時代に親から暴力を受けたり、激しくののしられたりして、それが当たり前のように育った人は、自らも立場の弱い子どもに対して身体的・心理的暴力をふるってしまう可能性が高いです。
次世代の虐待の連鎖の割合について、イギリスの精神科医ジャック・オリバー氏の研究で以下のような割合になっていることが分かりました 。
- 自分の子供に対して虐待を行うようになるのは全体の3分の1
- 普段の生活に支障がないものの、精神的な重圧がかかったとき、かつて自分がされてきたような虐待をわが子にしてしまう可能性のある人たちが全体の3分の1
- 虐待せずに子育てができるのは全体の3分の1
3分の1は虐待をせずに子育てができているのはとても喜ばしいことですが、虐待が連鎖する可能性が7割弱あるという事実は見過ごすわけにいきません。
親や子どもとかかわる大人が受けてきた教育(P96)
2018年2月、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが全国20歳以上の男女2万人を対象としたアンケート調査である「子どもに対するしつけのための体罰等の意識・実態調査結果報告書」の結果、「体罰を容認する」と答えた人が全体の約6割にのぼることがわかりました。
6割に容認されている体罰の内容は以下の通りです。
つまり、重い体罰は避けるべきだが、しつけのためならある程度の体罰はあってもよいということです。
これは、家庭だけなく学校などの教育現場でも見られる傾向です。
あなたの育った環境でも体罰を受けた、または周りに体罰を受けている人を目撃した経験はありませんか?
私が子どもの頃はまだまだ体罰があった時代でした。
親と喧嘩して自分の意見を通そうとするものなら、言い聞かせてくるわけでもなく親の方がヒステリックになり頭をたたいてくる。
学校では、時間内に席に着かない生徒がいれば先生からゲンコツ。
厳しい部活では足を蹴られたり、頬を平手打ちされる同級生を目撃。
そんな光景は当たり前でした。
ですが、体罰をされている側たちは「たたかれて育ったからこそ強くなれた」とか「愛の鞭」だとか当たり前のように体罰を受けいれていました。
体罰や暴言を吐く親や教師は自分も体罰の経験があり、その経験が教育のデフォルトとなっていつまでも虐待の連鎖が繰り返されるのです。
そして今の時代、殴られたとか暴言を吐かれたという世間に流れるニュースをみては「私たちの時代は体罰が当たり前だった」と言い、「今の子はか弱い」と、いかにも体罰が「しつけだった」という認識でいる大人たちは多いです。
時代がどうあれ、体罰は子どもにとって身体の痛みだけではなくこころの痛みにも直結するのです。
少なくとも私は子どもの頃に大人から受けた体罰や、みんなの前で恥をかかされた経験はこころの痛みになりました。
なので、体罰は間違いなく「暴力」で、社会全体が意識を変えるべきことなのです。
そんなつらい、悲しい過去をひきずり、こころに傷を負ったまま大人になり親となり、我が子と向き合ったときにどう子どもとかかわるのがいいのか?と大きな壁にぶつかるのです。
では、傷つけられたまま大人になった親はどう子どもとかかわるのがよいのでしょうか。
次の章で解説していきたいと思います。
親のネガティブな脳をポジティブに変えて子どもとかかわる
「じゃあどうやっていうことを聞かない子どもをたたかずに、怒鳴らずに育てられるんですか 」
「自分は親や教師から厳しくされ、でもこうやってちゃんと育ったのに何が悪いの?」
という人は多いです。
ですが、現実に不調を起こしている子どもが目の前にいるのです。
子どもの問題行動だと言われがちですが、実は以下のトレーニングによって、親のネガティブ脳をポジティブに変えていくことで子どもの行動が変わっていくんです。
ペアレント・トレーニング(PT)とは
ペアレント・トレーニングとはアメリカを中心に発展したトレーニングで、専門のスキルを持った支援員(心理士)のもと、親に子どもと接する際の技術や知識をつけてもらうことで間接的に子どもの行動を変えていくというトレーニングです。
もともとは、自閉症スペクトラム症やADHDなど、発達障害を抱える子どもをもつ親に向けたトレーニング法でした。
何度言ってもおもちゃを出しっぱなしにする、学校に行く支度が遅い、宿題や提出物を持っていかない 。
そんな子どもに怒ったり、叩いたりするような方法で親にしかられたとき、子どもは「次からはできるように頑張ってみよう」なんて素直に行動を変えることがあるでしょうか?
むしろその反対で、すねたり、反抗してきたり、子どもの行動もネガティブになるでしょう。
そんな子育て不安に悩む親のサポートをするため、現在では広い範囲で活用されています。
専門スタッフによるセッション
1~2週間に1回くらいのペースで、専門スタッフによるセッションを行う。
セッションで話し合ったこと、学んだことを親が家庭に持ち帰り、親子の間でそれらを実践し、その結果を次回のセッションで報告・検討するプロセスをひたすら地道に進めます。
たとえば、
「うちの子はあれもこれもできない」
と否定的に見るのではなく、
「いまはここまでできている」
「これは好ましい行動だ」
「どうも、ここから先がうまくできないようだ」
と、一歩引いたところでひとつひとつ子どもの現状を見直していきます。
こうして親が子どもの行動や状況を冷静に判断できるようになってきます。
そうすると、言葉がけや態度など子どもへの接し方を変えていくと、子どもの行動もより望ましい方向へ変わっていきます。
このように、親自身の意識や行動を変えていくことで子どもの問題行動が改善されていくのですね。
親への心理的支援
参加者はまず、支援者からこころと緊張をやわらげてもらい、リラックスする方法を教えてもらいます。
そして子どもに対して適切な行動が取れるよう、認知の歪みを修正します。
中には、子どものかかわりで冷静に観察できず感情が先走ってしまう親だっているはずです。
そんなときは、冷静さを保ち、怒りをコントロールするための「アンガーマネジメント」を支援者のもと、体験するのがおすすめです。
子どもの行動への対処法
支援者から子どもの行動を観察することの重要性を教えてもらいます。
子どもの褒め方、指示の出し方、トークン(ごほうび)などを用いて、親子で触れ合う時間を作り「好ましい子どもの行動」をふやし、「好ましくない行動」を減らしていく方法を学びます。
PTを受けて変わった子どもへのかかわり方
著書のP125~126の子どもとのかかわり方の例をご紹介したいと思います。
PTを受けてみて気づかされたのは、子どもたちと自分はまったく別の特性を持っている人間なんだ、ということでした。
それまでは、「こんなことも教えないとできないのか」と叱ってばかりで、この先どうしたらいいか悩んでいたのですが、プログラムのなかでそれぞれの子どもの特性について詳しく教わり、対処の方法を細かく知ることで子育てに対して冷静になることができました。
人を憎むな、システムを憎め。
子どもたちが悪いのではなく、脳のシステムに問題があるから理解しにくいことがあると教わりました。
子どもたちをよく観察して、どうしたら彼らが行動しやすいかを見つけていくほうが、𠮟りつけて行動を完結させるより早道で、結果的にわたし自身も楽になるということがわかりました。
たとえば、小学1年生の下の子は集団登校が苦手で、これまでは「高学年のお兄さんたちが困るから早くいこうよ」と言っても一向にいうことを聞いてくれませんでした。
そこで息子が好きな絵本『スイミー』の話を例に出して、「スイミーは大きな魚に食べられないよう仲間たちとかたまりになって泳いでいたでしょ」という話をしたら、草いじりをやめてスーッと列に戻っていったんです。
ほかのお子さんに効果があるかどうかはわかりませんが、わたし自身が見つけだした方法でうまくいったのがうれしかったし、ストレスがひとつ減りました。
親の脳を癒せば子どもの脳は変わる(P125~126:第3章「親の脳」が変わると「子どもの脳」も変わる)
子どもたちと自分はまったく別の特性だと気づいたからこそ、「私が子どものときはもっと聞き分けが良かったのに」と子どもに求めるのではなく、子ども自身がより良く行動していけるにはどうしたらいいか、ということが考えられるようになるのですね。
このようにPTトレーニングを受けることによって、親自身の脳にポジティブな神経回路がつくられ、子どもの成長をより良いものに変えていけるのです。
まとめ
いかがだったでしょうか?
ここまで、虐待についてと、よりよい子どもとのかかわり方についてお伝えさせていただきました。
あなたが子どもだったころの大人とのかかわりはどのようなものだったでしょうか?
大人との関係で「辛かった」記憶があり、でも「仕方なかったこと」と自分の本音に蓋をしつつ、いつのまにか大人にされたようなことを子どもにしてしまっている方は多くいます。
ニュースで流れる虐待する大人はだいたい「しつけのためにやった」と言います。
記事の参考にさせていただいた「親の脳を癒せば子どもの脳は変わる」の著者はこう言っています。
「痛ましい事件を耳にしたとき、世間の怒りの矛先は加害者はもちろんのこと、児童相談所や警察、教育関係者などにはげしく向けられます」(P9)
「しかし、怒りの感情をもつだけでは虐待問題は解決できません」(P9)
「本書を手にとってくださった方が、子どもを守るために大人ができることを一緒に考えてくださることを願います。」(P11)
引用元:親の脳を癒せば子どもの脳は変わる
子どもの頃辛い経験をされた方も、そうでない方も、この本を手に取ってちょっとでも少しでも虐待の連鎖を止めるにはどうしたらいいか考えていくことが大切です。
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